掲載日:2010年10月18日
みなさん、自然から受けている恩恵にはどんなことがあるでしょうか。
癒し、いい空気、エネルギー、…………などかな。
虫がしていることを人間がやろうとするとすごいお金がかかりますね。受粉とか。
整理すると、人間は何でもできると考えていますが、自然からもらっているものが多いのです。自然を忘れると大変なことが起こるのではないでしょうか。
いま、人類として考える時がきました。いま起こっていることは、どうしたら、自然の恩恵を持続的に受けられるでしょうか? 自然の恩恵をお金に換算すること=生態系サービスといいます。自然を考えるとは=生態系について知ることです。
どういうこと?三角形で考えましょう。つながっていることがイメージできます。 一番上にいる猛禽類も死ねば土に帰ります。全部つながっていて、バランスをとりながら生き物は生きています。
「オオタカを守ろう」=オオタカを守るとその下の生物を守ることになります。全部がつながらないとオオタカも生きられません。
分子生物学者の福岡伸一さんが言われてます。
「分際」というのが英語で言う「ニッチ・niche」。人間以外のすべての生き物は自分のニッチを守っていて、限られた資源や環境の中でほかの種と争いを起こさないように棲み分けているのです。交信する周波数も、活動する時間帯も限定して、自分が食べる食性も厳密に守っています。
南国に生息するツマグロヒョウモンチョウが北上し、本州でも見られます。ナガサキアゲハも北上しています。チョウは食べ物が限られているので棲み分けていますが、人間は遠くから食べ物を運んできます。ツマグロヒョウモンは幼虫時代にはスミレを好みますが、スミレを全部食べてしまったら、自分たちも生きていけません。バランスをとっているのです。
カラスウリは夜咲く花です。夜に活動する生物が食べます。植物もいろいろ、花の色が違ったり、夜に咲く花、昼に咲く花など棲み分けをしています。
1950年代 ボルネオ島でマラリヤが流行しました。WHO(世界保健機構)はDDTをまきましたが、DDTで蚊以外の虫も死に、死んだ虫を食べたヤモリもDDTが体内に濃縮して死に、それを食べた猫も死に、ネズミが大量発生しました。ネズミは別の伝染病を流行させました。
人間はどうしたでしょうか?1950年代。猫以外のネズミを食べる動物を入れた?のでしょうか。
正解は、「猫をパラシュートでばらまいた」。漫画みたいだけど本当。
大事なことは見えていないものも含め様々なものがつながって相互に影響を与えながら、バランスをとって成り立っている、ということです。
おおぜいでバランスをとる方が調整しあえます。これが「多様性の力」です。今後、多様性という概念はますます大切になってくると思います。虫が大量発生するのは、「多様性の力」のバランスが崩れ、環境がおかしくなっているサインです。
化石燃料利用していない時代、人間も生態系の一部で、身の丈にあった生活をしていました。このことを子供たちにわかってもらうため、私は背負い水の話をします。
子供たちにトイレで水を流したときの水の量をペットボトルに入れて持たせるのです。8Lの量は大変な量・重さで、その重さから、子供たちは人間はとても贅沢であることを実感します。
昔は必要な分だけを消費していましたが、今は欲しい分だけを消費しています。欲望をどうコントロールするかが今後問われます。
二酸化炭素が1950年代からすごい増え方をしています。
このままではいけない、何とかしなくては、と気づいたのが1992年地球サミットでした。
出発点は地球サミットの、「気候変動枠組条約(温暖化阻止)」と「生物多様性条約」でした。 人類がこの地球上で、持続可能性をもって生きていくために必要な条約です。
地球サミットでは、12歳の女の子だったセバン・スズキによる伝説のスピーチがありました。「大人たちは本当に私たちのことを考えているの?」と問いかけるものでした。
そして今年、2010年10月には生物多様性条約国会議が、名古屋で開催されます。
もともと、biological diversity の略語で、辞書的には「生物学的多様性」という意味です。
地球に生命が誕生して40億年ですが、私は1コマ100万年で地球年表を作ってみました。どのくらいの長さになるでしょうか。4000コマにもなるのです。
人類が誕生したのは除夜の鐘でいうなら最後の鐘が鳴った頃。その人類が地球温暖化の問題を起こしています。遅れて出てきて大変なことをしているのです。多様な命のつながりを、人間が寸断しています。
私たちの暮らしは、生物多様性の恵みを利用しています。このことを「生態系サービス(衣・食・住・医療・環境・文化、教育、学術・産業、経済)」といいます。この言葉は人類理解のキーワードです。
これをどう考えていくかが課題。
10月に開かれる生物多様性条約国会議(cop10)には、192ヶ国が参加しています。参加していない国の一つにアメリカがあります。なぜでしょうか。
生物多様性条約には3つの目的があります。コスタリカを旅してこのことがわかりました。
コスタリカは、カリブ海と太平洋に挟まれた熱帯にありますが、標高差が大きく多様で複雑な地形と気候風土を呈しています。単位面積あたりの動植物が最も多いと言われていて、全生物種の5%が生息しています。国土の25%以上を国立公園や自然保護区に指定しています。
生物多様性法が1996年に制定されましたた。法案制定に中心的役割を果たした、ルイス・マルティネス・ラミレス元国会議員の言葉「自然は全体でひとつのものであり、個別に保護しても、バランスを考えなければ意味がない」。 これは自然の生態系は何よりも優先するという価値観を打ち出したもの。人間の生活より自然を優先 すると言うものではなく、人間が持続的に発展・維持するためには、生態系のバランスを何よりも優先させなければならないと言うもの。
右はインディアナの薬草(階段の木)ですが、案内人の方の話では、外国の製薬会社の人が植物を採集し薬にしているそうです。
あなたの食べているものはどこからきたの。 材料は何?
ミルクポーションの材料は?
賞味期間 100日
原材料名 ?→パームヤシ
あなたの選ぶもので、ゴミを増えたり、減ったりする
中学生に質問すると答えはABCとばらけます。今日、参加した方々は全員がCを選びました。ABの納豆はどうなるでしょうか。家庭のことだけ考えれば24日の納豆が良いことになります。新鮮な食べ物を家族に与えることは、家族の食事を作っている人の役目かもしれません。しかし、スーパーには19日、22日の納豆が売れ残りゴミになります。もしくは偽装したくなります。捨てる納豆の値段も納豆に転嫁されます。
自分の家だけでなく、複眼的に考えることは大切だと思います。ゴミを減らすことが持続的に自然からの恵みを受ける力になります。一人一人が少しでも変わらないと変わりません。
生態系サービスを金額で表示したら年間(2010年8月27日 朝日新聞)どのくらいに換算できるでしょうか。
A 420億円
B 420兆円
(生態系破壊の損失額として、国連環境計画責任者が警告)
もちろん答えは420兆円を超えるのです。
ミツバチがやっていることを、人間がやったらいくらかかるでしょう。いまミツバチが減っている現象が出ています。ミツバチの減少が、まわりまわって人間の減少につながってくるとも限りません。
「バイオミミクリ」って知ってますか。
生物を学び、まねることです。フクロウは夜、獲物を捕るために音をたてないように飛びます。羽根に音を立てない仕組みがあるのです。
この原理を新幹線のパンタグラフに生かしました。トンネルにはいるときにドンと音がしなくなりました。(http://www.japanfs.org/ja_/biomimicry/interest01.html)
ほかにもあります。マジックテープはオナモミから。蓮の葉が水をはじく機能を壁材に使うとよごれがつきません。カタツムリの甲羅が汚れない仕組みを便器や外壁材に使うなど。
こういうことが私たちの生活を豊かしてくれます。
しかし、よく観察しないと間違うこともあります。有名なマングースとハブの例です。
ハブは、日本で最も恐れられている毒ヘビ。攻撃も素早く、長い間、島の人たちに与えてきた有形・無形の影響は極めて大きいものです。しかし、夜行性です。
マングースはインド原産でコブラの天敵。日本には1910年、ハブの天敵として沖縄本島に持ち込まれたのが始まり。専門家が当初29匹移植。今は3万匹。しかしハブは減りませんでした。どうしてでしょうか。
1970年代に琉球大学生が異変に気付きました。死んだマングースの胃を調べると、沖縄の貴重種(ヤンバルクイナとか)を食べていました。これは困った、ということで気づいたのです。マングースは昼行性だったのです。
一緒の檻に入れるとマングースが勝ちます。しかし自然の中でこの二つに出会いはあるのでしょうか。
なんでこういうことが起こったか。
専門家や大学の先生は現地を時々しか訪れない。沖縄に住んでもいない。研究の対象しか見ていない。身近なものに気付くのは、地元の人とか普通の人。
私は「さいたま緑のトラスト協会」で自然保全活動を行っています。 自然は手をつけなければいいと思うかもしれませんが、ちょっと手を入れないといろんな生き物が生息できなくなります。竹林が増えるのを押さえたり、林に光を入れたりの手入れが必要です。手入れすると森の中にスミレの花が咲きます。
ところで昆虫の中で一番多いのは、アリです。
アリを見たことがありますか?
アリは好きですか?
アリのことを知っていますか?
アリは世界で1京匹(1兆の1万倍)
巣の外で活動しているアリは3〜5%
スミレの花は好きですか?
植物は動けません。アリ散布植物(種を運ぶ)としてスミレ科、ユリ科のカタクリ属、ケシ科のケマン属があります。種子にはエライオソーム(動物性脂肪に近い組成をもった脂質分)があり、アリが大好き。利益を分け合っているのです。
私はこのことを物語にしました。
「ありんこサリー」の物語。目を閉じて聞いてください。
石川さんの朗読音声を聞く (MP3ファイル 4分12秒)
Q 北海道とかの山野を中国人が買っているとのこと。どうなるんでしょう。水、空気は保全できるのでしょうか。ディズニーランドみたいなものが作られたりしたら。持ってる人が管理しきれないということでしょうか。
A 山林には売買に規制がありません。森の役割とか考えていかないと大変なことになります。生態系サービスが受けられなくなります。規制が必要。
ギリシャやエジプトも昔は森林地帯でした。畑にすると風で土がとばされ、肥料が川に流れ込んで、富栄養化で水も悪くなります。森から海までつながっているのです。総合的に考えねばなりません。庶民はどうすべきでしょうか。政府が早く気づいて対策を立てるべきです。
トラスト地の中で江戸時代の循環型社会を作りたい。竹、薪を利用してもらえるところもある。利用システムがあればまわっていく。自然を見てきた人の知恵を生かしてほしい。
子供の教育が大事。わかりやすく伝える。大人の役割です。家庭で全ては無理。高校教科書に生態系のことが入ることになったようです。ゆっくり変えていくのと政治で規制する。ドイツは同時にやっている。学校のコンクリートをはがしている。
お金をたくさん持っている人・組織のトップに立つ人が「生物多様性」に気付けば、世の中は変わっていくのではないかと思います。
Q トラストって何をしているの。
A 森の管理。森の明るさをはかったり(明るい森はそのままでよい、となる)、竹林を押さえたり。アリの大行列など観察したり。10b×10bで竹林を伐採して光を入れました。900本のシラカシの芽が出てきました。落葉樹も多く芽生えました。植物が育つにどのくらいの明るさが必要かなど照度計を使って記録をとっています。専門家からアドバイスを受けながら実施しています。素人と専門家のコラボが大切だと思います。
0号地では木の実を使ったクラフトグループが活発になってきました。子供たちがちょっとでも自然に近づくきっかけづくりをしています。
森は多くの生き物で構成されています。ドングリを運んで秘密の穴に埋めているのはアカネズミです。アカネズミは全てのドングリを食べません。忘れん坊のアカネズミが隠したドングリが発芽し、また森を作っているのです。
お問い合わせ: NPO「大人の学校」 住 所: さいたま市南区別所5-1-11 TEL/FAX: 048-866-9466 Eメール: otonano-gakkou@cure.ocn.ne.jp |
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