掲載日:2010年11月7日
還暦をすぎて退職をして好きなことをやっています。
たまたまご縁があってシュッツさんのところでやってみないか、というお話がありまして、図々しくも弾かせていただきます。
寺子屋サロンのチラシに書いてあったとおり、リュート愛好家でしてプロではありませんので、そんなにうまい演奏ではないですが、楽器が珍しいので楽しんでいって下さい。
長々と1時間もやれとのことですので、お話は後で入れることにしてまずは聴いてもらいます。 なんといっても音色の美しいのがとりえの楽器です。でも音が小さいので、このくらいの小さい空間でやるのが良いのです。静かにしていただかないと聞こえません。(笑)
最初は16世紀のドイツの曲です。音色を聞いていただいてから楽器の歴史の話をします。16世紀ということでだいぶ昔の曲ですから、今と違って聴き難いかもしれません。
いかがでしょうか。
こんなめずらしい楽器をはじめからやっていたのではありません。はじめはギターを高校3年生の時から始めました。大学でも「工学部ギター科」(笑)というくらいだったのですが、ギターのレパートリーの中に古い音楽があって、14世紀、15世紀の作品で、自分ではいいなあと思っていました。また、18世紀に下ってバッハとかヴァイスという人のリュート作品もギターで弾いたりしてました。
そのころジュリアン・ブリームというギタリストの演奏会がありました。そのときに初めてリュートという楽器を見ました。ブリームのコンサートの後半がリュートの曲だったのです。とても素朴な曲で、田舎のおっさんが楽しんでいるような感じで、心に残りました。
これが40年くらい前の話で、リュートいう楽器もまだ完全には復興してませんでした。楽器もほとんど手に入らず、手に入れようとも考えませんでした。
学校を出て就職した先の職場にたまたまリュートをやっている方がいました。その方のつてで初めて楽器を手に入れました。
リュートの特徴はネックがほとんど90度に折れ曲がっていることでしょう。糸巻きはヴァイオリンと同じように手巻き(ペグ式)で、機械式ではありません。
楽器本体に透かし彫りがあります。ロゼッタといいます。値段が高いリュートだとすごく凝った装飾になっていて、美術的価値もあります。背中とか胴回りを凝った装飾にしている楽器もあります。
中世のフレスコ画や宗教画なんかで天使が弾いていたりするのがリュートです。この楽器はアラビアで発生したウードという楽器がもとです。14世紀くらいにウードがヨーロッパに入ってきます。それがリュートという名前になりました。
ウードはウッドで木の楽器ということですが、女性名詞の定冠詞が着いて「ラ・ウード」と呼ばれ、それが「リュート」になったということです。
ウードが西のヨーロッパではリュートになり、東の中国では「ピパ」と呼ばれ、漢字では琵琶と書きます。琵琶も形はリュートやウードによく似ていますね。
日本に入ってきて、薩摩琵琶とかになります。ただリュートは背中がふくらんでいますが、日本の琵琶になりますと背中のふくらみは無くなります。平らで板状です。
後で持ちたい方は持っていただきますが、とても軽い楽器です。板の厚さが1mmあるかないかくらいで、ギターを弾く方はびっくりされます。
リュートの弦は複弦になっていて、「何弦のリュート」といわないで「何コースのリュート」と呼んでいます。6セットの複弦で6コースのリュートということです。
楽譜もいわゆる「五線譜」ではなく、「タブラチュア」という記譜法によってかかれています。タブラチュアは「6線譜」です。なぜかというとリュートの基本が6コースだからです。
タブラチュア譜は音の高さを表したものではなく、「第何コースのいくつ目のフレットを押さえるか」を表したものです。
印刷技術が15世紀にできたのですが、その頃は聖書ばかり印刷していて、楽譜の印刷など考えられてもいなかったので、当時の楽譜はほとんど残っていません。かろうじて手書きの楽譜がわずかに残っているだけです。それを解読するのです。古文書の解読みたいです。それも面白さです。最近はそれも集大成されてきて、印刷されるようになっていますが、日本では商売にならないので、そういう楽譜は印刷されていません。フランスなどで出版されているのを買います。
6コースが基本で、11本の弦があります(第1コースだけは弦が1本で他は2本の複弦)。それでだいたいの音楽には間に合うんですが、だんだん低音がほしいというので、7コース、8コースのリュートが作られます。
リュートを買って1年ほどあとから先生につきました。左近径介先生という日本のリュート界の草分け的な人です。いまから20年くらい前で、一昨々年まで教えていただきました。
その先生に音楽とはどういうものかを開眼させてもらいました。すばらしい先生だったと思います。 昔の音楽は楽譜通り弾いても何も面白くない、等間隔に弾いてもしょうがない、とか、テンポも適当にずらしたり、装飾音符も自分で考えて入れる、とかのレッスンを受けました。自分なりに少しは音楽がわかったかなという気になっています。
古楽っぽいのを一つやります。楽譜通りと、後でそうでないのをやってみます。
このように楽譜からいろいろ考えて自分なりに弾いてみるというのが、古楽の楽しみです。
古楽は現代の音楽より自由度が広いです。昔は作曲家と演奏家が別れていなくて、作曲家=演奏家でした。ですから楽譜には細かい指示が書いてありません。骨組みしか書いてません。弾く人が自分で音楽を作る、というスタイルでした。その辺もだいぶ違って、以前ギターをやっている頃は、楽譜通り弾くために一所懸命練習しましたが、そんなんじゃ全然音楽じゃないということを教わりました。
音符の長さも、付点音符でも昔は3:1に分けるというような約束は無かったようで、ただちょっと音符の時間が長いんだよという意味くらいでした。ですから楽譜通り弾いてもつまらない、となるのです。
次は、という有名な曲です。楽譜通りに弾くより、私なりには付点の所をもっと弾んで弾きます。するともっと楽しくなりますね。
16世紀くらいまで8コースリュートでやっていました。このくらいだと王様が寝るとき枕元で弾いたり、辻音楽士が夜の街角で響かせたり、お祭りで鳴らしたりするにはよかったのですが、音楽的要求が大きくなるにしたがい、低い弦がほしいということで弦の数が増えました。それが10コース(19弦)のリュートです。
だいぶ低音まで使えるようになって、響きも豊かになりますが、指板の幅が広くなって弾きにくくはなります。民衆の楽器というより、音楽家の楽器になってきました。
実際抱えてみると、大きさも違って、8コースとの微妙な差が弾き手にはとても苦しい。半音のフレットの間隔も違います。弦と弦の間隔も違います。これから弾くので予防線を張っているだけともいえますが。(笑)隣の弦を弾いてしまうなどはしょっちゅうあります。
プロも一つのステ−ジでは一つの楽器しか弾かないようなんですが、素人なのでついこういうことをやってしまいます。(笑)
10コースリュートを持っていれば、8コースも兼ねるからいいじゃないの、と思われるかもしれませんが、響きがずいぶん違いますでしょう。
さらにもっと低音弦がほしいということで13コースのリュートができました。
17世紀後半から18世になりますとチューニング自体を変えようという動きが出てきて、新しい調弦のリュートが作られました。新しいリュートは最初からDマイナーに調弦され、13コース(24弦。第1,2コースが単弦)となっています。
これをそれまでのリュートと区別してバロックリュート呼びます。これまでのはルネッサンスリュートと呼んでいます。
24弦もあると弦の張り方にも相当苦労します。一番高い音が別の所に乗っかったり、低い4本は別の構造をくっつけないと収まらない、楽器としてはかなりお化けです。発達しすぎて、この形状の楽器としては異常ともいえます。演奏もかなり困難です。それをあえて今から弾いてみます(笑)。
@ Gavotte(ディックス)(ドイツ)(演奏録音無し)ヴァイスはバッハの友人でリュートの名人でした。バッハもヴァイスの影響を受けて少しだけリュートの曲を書いています。
この上の14コースの楽器があったか無かったは定かではありませんが、バッハの曲を弾くにはあった方が弾きやすい、ということであったのではないかと想像されてます。
13コースという複雑怪奇な楽器になってしまい、演奏する人がだんだんいなくなり、バッハがリュート組曲という音楽を書いた後は、曲も作られず、リュートも忘れ去られ廃れてしまいます。
20世紀の中頃になって古楽が注目される中で、リュートもまた広まってきました。
ギターはどうなっていたかというと、よくわからないんです。ギターはリュートとよく似ていますが、背中がふくらんでいませんし、リュートと並行してギターはあったようです。
ルネッサンス時代からスペインに「ヴィゥエラ」というギターによく似た楽器がありました。
スペインではリュートが全く流行りませんでした。民族的にもアラブから伝わったリュートは好かん、というようなこともあったらしいです。
しかしヴィゥエラはリュートと同じ調弦でした。ヴィゥエラがギターの先祖らしいです。
ルネッサンスやバロックにもリュートと並行してギターがありました。19世紀になって現代のギターとほぼ同型の楽器ができました。
我が家にある楽器を全部持ってきたのですが、これが19世紀ギターです。現代のギターより2まわり、3まわり小さいです。構造的にも違いはあります。
現代のギターは19世紀末にできたもので、大きなホールで弾くために作られました。19世紀まではサロンで弾く楽器でした。このくらいの会場がちょうどいいです。
ちょっと音色だけ聞いていただきます。フェルナンド・ソルという「現代ギターの父」といわれる人の曲です。これは五線譜です。
以上がリュートの大体の流れです。ここで店のスタッフを交えて、ルネッサンスの歌を一つお聞かせします。先ほどのGreen Sleevesを歌付きで。
ルネッサンスの人はこういうふうに楽しんでいたんですね。
Q とっても軽いですが、これは何の木でできているのですか。
A たぶんカエデだと思います。
Q 弦は何ですか。
A 本当はガット(羊の腸をよじったもの)ですが、ここにあるのはナイロンです。ガットは温度で伸び縮するので調弦がたいへんでした。当時の言葉ですが、60歳のリュート弾きは調弦に20年費やした、と言われたほどです。フレットもギターなどとは違い金属が埋め込んであるのではなく、ガットが巻いてあるのです。そうすると触ると動かせるので、平均律でない調弦をすることもできます。
Q 楽器は誰が作ったのですか。
A この楽器は日本人です。
お問い合わせ: NPO「大人の学校」 住 所: さいたま市南区別所5-1-11 TEL/FAX: 048-866-9466 Eメール: otonano-gakkou@cure.ocn.ne.jp |
[制作] NPO(特定非営利活動法人) 大人の学校