掲載日:2011年2月20日
久しぶりに人前で話させていただきます。
ここはコーヒーがおいしいですよ。この前打ち合わせに来て知ったのですが、ここのお店は、私も通っていた、東京の有名なコーヒー店バッハで修行されたとかです。店名もクラシックつながりでシュッツというのかなと。シュッツというのはドイツのバロック音楽の完成者なんです。
まずはお店の宣伝になってしまいましたが、私は紹介の所に地形・地質研究家とか、登山歴35年とか書かれていますが、書かれた本人がびっくりしています。もともと不埒な人間でいろんなことをやってきました。学生時代から経済、法律、歴史とかいろんなものに興味を持って、自分なりに勉強してきました。
山が好きだったことは事実で、当初はコースタイムの半分で登るというのを目標にしていました。周りはほとんど見ないで頂上だけを目指すという、いわゆるピークハンターでしたが、ある時ふと周りを見ましたら、日本の山は植物が豊富で、「あれ、日本の山ってすごいんじゃないかな」と考え、植物に興味を持つようになりました。
40代後半になって、小泉武栄先生という東京学芸大学の先生と関わりができました。その先生のお話は地生態学といって、地質・地形と植物とがどのような関わりを持つか、というようなことなんですが、最初聞いたときは何がいいたいのかさっぱりわかりませんでした。その土地に生えている植物は、そこの地質・地形・気候と非常に関係があるのだということがわかり始め、50代になったら宗教学を勉強しようと考えていたのを転換して、地生態学、先生の自然地理学を自分なりに勉強するようになりました。
その中で先生が最近力を入れておられるのがジオパークなんです。ジオパークというのは、日本に適した考え方です。ジオパークはユネスコで認定して、現在25カ国、77地域があります。日本での推進委員の一人が小泉先生です。私も小泉先生と一緒にいろんな所に行ったりし、そのような関係で今日お話しすることになりました。
私は浦和駅東側の本太に20年くらい前に引っ越してきまして、浦和で現代史の勉強会を10年やってきました。またサッカーのコーチとして子供たちを7,8年教えました。そういうことが浦和とのつながりですが、職場は東京なので地元との関わりはそれくらいです。
いよいよ本論に入っていきますが、みなさまは年に何回くらい旅行をされますか。5回以上の方はおられますか。今日はサクラの方もいらっしゃいますが、その方たちは当然5回以上です。いろんな形の旅行がありますが、温泉で癒しとか、山登りに行くとか、自然との関わりでいえば、国立公園に行って散策するとかいろいろあります。
日本の官庁で数年前、観光庁という庁が独立しました。観光庁は海外からの日本への旅行者を増やそうという目的を持っています。来日する海外からの観光客数は世界で28位とのことで、先進国中では最下位です。
欧米から見れば極東の日本は遠いということはありますが、28位はあまりに低い、2020年には3倍にするという計画を観光庁は作成しました。何を眼目にしているかといえば、一番にあげているのが自然です。
しかし外国人がなぜ日本に来ないかというと、地震が多い、火山が多いということで、大変危険な国だと思われているのです。文化財については日本人は京都、奈良は素晴らしいと思っていますが、外国人からすると文化財についてはむしろ中国なのです。だから観光庁も自然に力を入れたいと考えています。
自然といっても非常に漠然としています。国立公園が現在36くらいありますが、それらを中心に観光客を増やしたいという考えです。これは従来の考えと変わりません。日本の国立公園が他国と比べどこがどう違うのかが発信できていません。
日本に来る観光客は何を目的に来ているのでしょうか。2005年には853万人が海外から来ていますが、その48%が観光客です。約半分しか来てないということです。そのほかは仕事できているということです。
日本に来た観光客が必ず行くのは、浅草寺、京都、日光です。自然についてはどこに行くか。どこだと思います?(富士山?の声)。違いますね。高尾山です。ミシュランの影響でしょうか。
ちょっとそれますが、外国人が日本で一番楽しみにしているのはなんだと思います?食べることなんですよ。東京、京都、大阪は世界でナンバーワンの食の都市なんです。あらゆる世界の料理がそろっているところとしては、ニューヨークなど比べものになりません。日本は魚がおいしいです。日本は魚の種類が世界一という国際的な調査もあるようです。肉も野菜も豊富な国です。日本は物価が高いが、食べ物が一番の楽しみで外国人は日本に来るようです。
観光庁の言っていることではない、日本の自然の特徴って何でしょうか。一般的なことではなく、世界的に見て特殊日本的な自然とは?アピールできることは何なのでしょうか。
日本の植物の種類は、4000から7000と言われていますが、高尾山にはそのうち2000種類があります。これは日本一です。照葉樹林も広葉樹林もあるし、針葉樹林もある。三つの樹林帯があります。そのほかにも苔類とかあります。高尾山にミシュランの三つ星をつけたフランス人はさすがです。
動物、魚類の種類でも日本は世界に冠たる位置にいます。こんなに狭い国なのに、大変種類が多いという特質を持っています。
これらはどういうところから来ているかと言えば、そのうちの一つが気候です。
一般的に日本の自然のすばらしさは何ですかと言うと、四季があることと言いますが、温帯だったら大体あります。日本の四季と他の温帯国の四季の違いはなにか。季節と季節の間が極端と言うことです。梅雨があります。梅雨は他国では一般的ではありません。秋霖もあります。秋雨です。短い期間ですが梅雨のようなものがあります。
雪も沢山降ります。多雪は世界では一般的ではありません。非常に特殊です。シベリアもカナダも雪は降りますが、多雪ではありません。世界で一日の積雪量が一番なのは新潟の妙高です。一日に3mくらい降りました。年間積雪量も新潟あたりで20mとか30mとかの記録があります。一シーズンだけでそれだけ降りました。台風があるのも特殊です。気候的に日本は特殊条件がそろっています。
多雪気候との関係では海流が重要です。シベリアの乾いた寒気団が日本海を渡ることで、暖流の対馬海流からの水蒸気を吸収し重いスジ状の雲が発達します。それが奥羽山脈や日本アルプスにぶつかって多雪となります。
地形的には火山が非常に多い国です。公式的には現在108の活火山があります。活火山は過去1万年の間に活動した火山のことです。実際はもっとあるだろうと思われます。有珠山、昭和新山、雲仙なんかそうですが、予期せぬ新しい火山ができるんですね。
今火山学者は少なく、多くなれば調べるのでしょうが、特に東北の方が、学者が少なく調査できない部分があります。200以上、場合によっては300近くいくのではないかと思っています。人間の一生のうち、多い場合は5つくらいの火山が爆発した、と聞くのではないでしょうか。
海岸線を見ると、砂浜あり、リアス式海岸ありですごいです。正月に銚子に行ったのですが、ここは九十九里で砂浜ですが、ちょっと行くとリアス式海岸があり、その先は犬吠岬でずーっと屏風ヶ浦という崖のようになっているところです。その先は利根川で、鹿島となりまた砂浜になります。そういう連続で複雑な海岸線になっています。規模は非常に小さく、箱庭かといわれるようなものですが、複雑な海岸線は世界的にはめずらしいのです。
次は地質です。あまり細かいことは言いませんが、日本の地質を調べると、地質の博物館のようになります。博物館にはこれは○岩、これは×岩とかありますが、日本列島全部が岩石の博物館なんです。日本列島は複雑な地形と地質・岩石でできています。
温泉・地震が多い、小さな島にしては高い山が多い、通常は4-5000メートル以上でないと見られない高山植物が、日本だと1000mくらいのところで見られます。そういう意味では特殊な地域なのだ、ということを私は強調したいです。
動植物、気候、海洋、地形、地質、その他すべて日本は特殊なのです。奇跡的な場所なのです。ユーラシア大陸の端っこにありながら、世界から見ると冠たる自然の宝庫です。
このような特殊な自然をもたらしたものは何なのでしょう
。人間の歴史は地質年代区分で言いますと、第四紀(別表では165万年前であるが、去年の今頃国際地質学会かなんかで260万年前と訂正)からが人類の歴史です。類人猿は700万年前くらいから。哺乳類は7000万年前からですが、爬虫類と若干クロスしています。爬虫類は2億4500年前から、古生代(5億4000万年前から)は無脊椎動物の歴史というふうに、その時代の主要な動物によって区分をしています。
ヒトの一生はせいぜい80年前後ですが、地球の歴史は46億年を経てきました。1960年代には地球の歴史は1-2億年といわれていましたが、科学の調査方法が変わってきて、今は46億年になっています。46億年を仮に距離の尺度にして東京―大阪の距離とすると、人類の260万年前というのは東京駅を発車したかな、というほどのものです。700万年前は有楽町あたり、哺乳類の7000万年前は品川、無脊椎動物は小田原くらい、生物ということだと名古屋をちょっと出たくらいです。そこだと微生物の世界です。地質の歴史は我々が経験できる身近な歴史です。地質を経験することで地球の歴史を肌で感じることができます。
地球の歴史を肌で感じることができるのは、プレート理論という仮説があって、仮説ですので本当に正しいかどうかはわからないのですが、いろんなことがうまく説明できるのです。プレート理論は日本では1970年代から主流になってきました。アメリカより10年くらい遅れています。
地球の表面は12枚のプレートにのっていますが、そのプレートは動いています。しかし場所によって動き方が違い、すごいところは年間10cm動きます。少ないところは3−4cm。日本は12枚のうち4枚が揃っています。うれしいのか、うれしくないのか。4枚揃っているのは世界でもここだけです。これが火山、地形、地震、気候、植物相などを規定しています。
4枚というのはユーラシア、北米、太平洋、フィリピン海プレートの4枚です。前2つが大陸のプレート、後の2つが海のプレートです。海のプレートが比重の関係で、大陸の下にもぐりこんでいます。もぐるところを海溝と呼んでいます。日本海溝とか南西諸島海溝とかです。日本がすごいのは、北米、太平洋、フィリピン海プレートの3つが重なっているところがあるからです。それが富士山です。富士山の真下です。ですから富士山は大変こわい山です。きれいだけどこわい。いつ噴火してもおかしくありません。
プレートのおかげで弊害も出ているし、恩恵も受けているわけです。温泉が多い、地震が多いなどですね。
世界の地震の1割が日本です。地震のタイプに2つありまして、プレート型と断層型です。プレート型のほうが大きい地震です。日本列島は断層だらけで、浦和の辺りにもいくつかあります。
断層がずれたり動いたりするというのもプレートの力なんです。プレートは年間3−4cmもぐりこみますが、それが反作用のような形ではじけます。それによって地震がおきます。
また沈み込みによってマグマができます。マグマがあるので火山ができます。マグマは各火山にひとつづつあるのではなくて、マグマだまりからいろんなところに派生して火山ができます。その原因もプレートです。典型的なのは奥羽山脈でまっすぐに火山が並んでいて、火山フロントといわれています。
こういう日本列島ですから、住んでる我々は震度3くらいの地震にあまりこわがるということはありませんが、アメリカ東部の米国人やイギリス、フランス北部、ドイツなどはほとんど経験がありませんから、地面が動くということが信じられません。火山もない国のほうが多いですから、山が火を吹くなんて信じられないのです。日本は山の神といいますが、火山があるからいうのです。
長い前段でしたが、ようやくジオパークをお話できるところに来ました。
ジオパークは、日本では洞爺湖・有珠山(火山)・島原半島(火山)・糸魚川(地質)・山陰海岸(地質・地形)の4つをユネスコが認めています。
ユネスコが認めているというと世界遺産が有名ですが、2009年で世界遺産は811あります。うち75%が文化遺産です。20%が自然遺産、残りは複合遺産です。複合遺産はマチュピチュやカッパドキアなんかです。日本は複合遺産はありません。日本は14の世界遺産がありますが、自然遺産は3つです。知床、白神、屋久島です。候補になろうとしているのが小笠原。
世界自然遺産とジオパークとがダブっているところはあります。例えばカッパドキアは地質的には凝灰岩という地質です。地形的にもジオパークとダブルだろうと思います。
「ジオ」というのは地球という意味です。地質学、地理学関係の学問の英語名にも「ジオ(geo-)」がつくことが多いです。ジオパークは地球のパーク、地質のパーク、地形のパークということなんです。私は小泉先生に「ジオパークって名前が余りよくないです」と言ったところ、「地球遺産としたほうがいいね」と言われました。まさしく地球遺産ですね。
日本のジオパークは規模は小さいですが、候補地は各県1つ、場合によっては2つ以上あります。埼玉だと秩父がまさしく当てはまります。秩父は地質学発祥の地でもありますから、宮沢賢治も訪れたそうです。変化にとんだ地形と地質が見られます。日本一のポットホールが見られます。家庭用お風呂の2倍くらいの大きさのポットホールです。そういうところですから、秩父をジオパークにしようという運動があります。
ジオパークでは、教育と観光ということで、通常の観光のように「きれいね、すばらしいね」で終わりません。熱心なボランティアの方にくどくど説明されるのも困るということもありますが、ジオパークは説明がないとわかりづらいです。前段でお話したようなことを前提にしてのお話が必要です。その意味でボランティアが重要な位置を占めます。
パンフレットも必要です。お手元にあるのは糸魚川のパンフレットです。それを見れば説明がなくても、そのジオパークの特色がわかります。
ジオパークの中心には、博物館や資料館をおかねばならない、ということがジオパークの条件です。実物を見て疑問が出てきたとき、博物館やそこの専門委員に見たり聞いたりして、地質、地形についての知識を深めることができなければなりません。
ジオパークはユネスコで認定しますが、国内委員会があります。それが「日本ジオパークネットワーク」です。その選定委員の一人が先の小泉武栄先生です。残りの2人の先生は火山学者で、島原の雲仙がジオパークになっているのはそのせいかなと思ったりします。雲仙はすばらしいですが、地質的にはどうかなと個人的には思います。この前噴火したからか、それだったら櫻島とか霧島の方がいいなと思います。佐渡島、沖縄などすごいですし、昨年ちょっと行った紀州の海岸地帯はものすごいです。候補地はいっぱいあります。
ボランティア、パンフレット、博物館があって、地域一体となって取り組むという姿勢がないと、「ジオパークネットワーク」では認められません。そういう制約はありますが、地方ではなかなか観光では伸びないということがあるので、いろんな形での取り組みが現われています。
以下にあります候補地、個人的に推薦したいところといろいろ書きましたが、日本には非常に多いです。
山陰浦富海岸(鳥取県)。遊覧船からみた地形。海底に積もった土がプレートの動きや地震で隆起したもの。力の関係でこのように縦に入っている。これだけ見ると一番右の海底が古いだろうと思われます。 | |
白っぽい流紋岩という、ガラス質を多く含んだ岩石かもしれません。穴のようなのが開いているのは、波に削られた海食洞でいくつもありました。トンネルみたいなのもあります。ここはウニ、ワカメの宝庫です。リアス式海岸ですね。 | |
砂丘の一部。最初砂州で池になり、砂丘になる。鳥取砂丘の周囲には池がいっぱい。植物が生えてきて侵食されてきています。 | |
次は秩父。 蛇紋岩という岩石。天然石綿。マグネシウムを含み植物には有害。育ちません。 | |
日本一のポットホール。変成岩です。 | |
スランプ構造。硬くならない間に地震が来て積み重なった。 |
Q 姫島の白い石も流紋岩ですか?
A そうです
Q 埼玉は秩父以外に面白いところはありますか。
A 寄居のあたりでしょう。比企丘陵から熊谷の荒川河岸にかけてとか。しかしインパクトは弱いです。 近県で言うと栃木はすごい。栃木市、葛生町、塩原、馬頭、宇都宮。宇都宮だけで十分楽しめます。大谷石や火山灰がきれいに見えるところもあります。 日光も十分ジオパークになります。火山とそれに伴う地形。中禅寺湖に自然史博物館があり条件もそろっています。 群馬県は下仁田あたり。
Q 秩父は荒川に沿った地位ですか。
A それだけでなく、小鹿野、奥秩父のあたりも含みます。地質に植物も絡めると非常に面白いです。 近県だと、高尾山、箱根、丹沢なんかも。三浦半島などあげたらきりがありません。 観光地でないようなところ、観光地でも地元の人が知らないところ。地元の人に連絡しても「そんなとこありません」といわれる。地元の人が知ったら自慢できる誇らしいところになります。 既存のジオパークでは糸魚川が一番近い。フォッサマグナが特徴。断層が見られます。海底火山の隆起があります。百名山に名を連ねる山もあります。翡翠峡、親不知海岸など見所は沢山あって、博物館も2つあります。
お問い合わせ: NPO「大人の学校」 住 所: さいたま市南区別所5-1-11 TEL/FAX: 048-866-9466 Eメール: otonano-gakkou@cure.ocn.ne.jp |
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