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掲載日:2011年4月17日

失敗しないドライブ旅行
〜防衛運転で余生も楽しく〜

月坂恒夫さん 開催日:2011年2月19日(土)
会 場:コーヒー屋シュッツ
話し手:月坂恒夫さん(SPRO代表)

目次

 


質問をたくさんしてください。
失敗しないドライブ旅行の話をして、防衛運転の話につなげていきます。

私、10日ほど前に74歳になりました。いまでもいろんなところに長距離ドライブに出かけます。そういうときの経験で、便利なところ、いいところの話をします。

1.無理・あせりのないドライブ旅行

昨年夏関西にドライブ旅行しました。次男が大阪の枚方に新居を構えて、来てくれということでしたので出かけたのです。できれば車で行きたいということになりました。

このときのポイントは、余裕のある計画でした。昔の軍隊ではないですが、兵站といいますか、食料と燃料をどうするかですね。このことは私は高校生からこだわっていました。旅行で言えば、運転に集中するため昼飯、宿泊、ガソリンをどうするかです。まずそれを考えました。私は旅行コースを「マッップファン」で、あるポイントと次のポイントを指定すると、所要の距離と時間、料金がぱっと出ます。これを元にするとかなり精度の高いプランができます。

私の1日の走行距離はマックス350kmが実績です。無理しないという観点からだと、枚方までは500kmですから、名古屋あたりで泊まらないとだめです。

私は一昨年からユースホステルの会員になっています。安くて便利、きれいです。ここをうまく使うと余裕のある、気持ちのいい旅行ができます。

防衛運転や、車の整備は言うまでもありませんが、それは後から話します。

ドライブの距離は当然渋滞を見込みます。「マッップファン」は高速道路で時速80km、一般道路で30kmの計算です。

私はこの年まで車では浜松から向こうは行ったことがありませんでした。初めてのところはナビが非常に役立ちます。運転に集中できます。精度もいいです。息子の家のまん前までガイドしてくれました。安心して運転できました。下記のように出発時間、走行距離、到着時間等の一表を作っておくと、無理やあせりなくドライブできます。

図表

車で行くときのいい点は、見たいところを見たいだけ見られるということです。そういう計画が立てられるということです。ツアーだとどうしても1ヶ所での見学時間、集合時刻に縛られます。もうちょっと見たいなあ、というフラストレーションは車で行けばありません。

私は2年前ハイブリッド車に乗り換えました。精神衛生上大変いいです。ブレーキになると発電しますし、山の下りで発電するので、それを次のエネルギーとして使えます。もったいない人間の私としては、気持ちがよかったです。

ユースホステルは結構観光地に集中してますから便利です。会員になると全国のホステルの位置を示した日本地図を含むホステリングガイドを送ってくれます。

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2.防衛運転について

私は40年近く事故調査、警察庁の事故データとか、自分も自動車会社にいましたので、特に二輪を中心に安全装置の開発を行ってきました。

バイクで15万km、四輪で60万km走行の実績がありますが、昨年ひとつの節目として、その中で自分がサバイバルできてきた防衛運転をまとめてみたのが、この冊子です。

今日はそのアウトラインをご紹介します。みなさん方からはいろいろ突っ込んでいただきたいと思います。

宮本武蔵はサバイバルのエキスを「五輪書」に著しましたが、私の「五輪書」がこの冊子です。多くの方が防衛運転を究めてもらいたい、との思いでお話します。

防衛運転とは、自分の命は自分で守る、ということです。加害事故だけでなく、もらい事故にも気をつけねばなりません。そのためには、みなさん方のなぜ防衛運転をしなければならないかの動機付けが必要です。

私の後輩は後遺障害で15年たった今でも車椅子でリハビリに通って生活している人の話とか、加害者で購いの日々を千葉刑務所ですごしている人の手記とかを活用しています。

図表

防衛運転とは、一言で言うと「ヒヤリ・ハット」の防止を目指します。

飛行機などではニアミスといわれています。 「ヒヤリ・ハッと」をなくすためには、知識として人、環境、車の特性を知ること、事故の現実を目をそらすことなく知ることです。

世の中にある事故調査や研究報告などは、あまり一般の人に伝わっていません。「ヒヤリ・ハット」をなくすための手段としては、サーチ、デノーメン、オンブレーキがキーワードとなっています。

今日の事前アンケートではほとんどの皆さんはヒヤリ・ハットの経験があります。こういう経験をしたときどうしていますか。「気をつけなきゃ」で終わっているのか、具体的に再発防止のため分析し、なぜ起こったかをよく考えて二度としない方法を実行することが大事です。これをすることで防衛運転に近づきます。

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3.事故の様相

図表

今死者数は減っています。21年度で4900人、一時期は16000人くらいいました。去年は4800人くらいになっていると思います。

新聞では減っていることが大きく取り上げられており、皆さん車の運転は安全になっているのではないかと思っています。そこに落とし穴があります。

人身事故のトータルの件数は実質的に減っていません。後遺障害者数は10年前は3万人くらいでしたが、最近は5万6千人と増えています。私はこれが問題だといってきましたが、最近ようやく損保業界も声を上げ始めました。4月から任意保険が60歳からは3000円上がる、70歳以上は7150円上がるとのことです。確かに後遺障害というのは金がかかります。一生面倒見なければならないからです。

実はハインリッヒの法則というのがあって、重大事故一件につき、準重大事故が29件ある、さらにその下に300件のそれに次ぐ事故がある、というのです。ヒヤリ・ハットはこの底辺の事故を減らそうということです。そこから気をつけて重大事故にならないようにする、ということです。

皆さんは事故の原因は何だと思いますか。 (よそ見、スピード出しすぎ、わき見運転、の声)

事故は全部まとめて90%以上が認知遅れということで起こっています。残りは気がついていても相手が止まるだろうと思っていたという事故等です。

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4.「デノーメン」ということ

図表

そこで私はサーチと言ってますが、危険の芽を探る行為が重要になってきます。次にどこをサーチして、どこが要注意なのかを事前に知る方法です。これはドイツのムンシュ博士が提唱したデノーメン(ドイツ語の造語でダイナマイト現象の意)と言います。

デノーメンは安全と危険を模式化したものです。前方にダイナマイトがあったとします。その時、漫然と走るのか、導火線や着火の有無を確認しながら走るのかにより、結果が大きく異なります。今このときは危険と安全が共存しているところなのです。いずれを認識して走るかによって次の対処の形が変わってきます。

皆さん徐行と言う言葉をご存知だと思いますが、徐行はいつでも止まれるということです。しかし徐行に準ずる言葉はありませんね。危険と安全の共存を認識しているのは、徐行に準ずることです。漫然と行けば事故を起こすし、要注意で行けば安全という概念がデノーメンです。

こういうことを基本に話をしていくと、危険予知トレーニングと言うのがありますが、いろんな事故現場の写真を見せて、こういうときはどうしますかと聞いていくのですが、これがデノーメンです。

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5.空走時間を短くするには

図表

次に問題になることはどう操作するかということです。ここで大事なのはブレーキのことです。

危険に気がついて止まるまでには空走距離、制動距離が必要です。危険に気づいても、ブレーキを踏み込むまでは車は同じ速度で進みます。これが空走距離。ブレーキを踏み込んで止まるまでが制動距離です。

空走距離の中には何があるでしょうか。運転手が気づいてブレーキを踏み込まねばと思う時間が0.4秒、実際に足をアクセルからブレーキまでもっていくのに0.2秒、踏み込むのに0.1秒かかります。よそ見をしていたりするとハッとしてからブレーキを踏み込むまでに0.2秒余分にかかります。実際にブレーキを踏み込むまでの空走時間が0.9秒かかります。これは40-50代くらいまでの人のことです。年をとるとこの数字も伸びます。

空走時間を少しでも短くするための方策として私が提唱しているのがオンブレーキということです。デノーメンを見つけたらアクセルからブレーキペダルに足をおきかえることで、0.2秒短縮されます。さらに危険予知で最初の0.2秒を短縮します。これで0.4秒短くなります。オンブレーキ状態は、頭の先から足の先まで一種の警戒態勢を意識的に作ることです。

オンブレーキはかかとは床につけて、足首を回してアクセルとブレーキ間の移動をすばやく行います。持ち上げなくても楽だし早いです。もうやっている人もいるでしょう。習慣づくと無意識のうちに踏み替えが可能になります。

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6.一番多い事故は何でしょう

日本で一番多い事故形態は何でしょうか。四択でいきます。出会い頭、右折、左折、追突の4つです。・・・・追突が一番です。

前見て運転しているのに、と思うのですが、運転は人間の特性がモロに出ます。下左のグラフをよく見てください。何か気づきますか。空走距離の割合が速度が遅いほど大きいです。

図表 図表

上右は空走割合を示したものです。10kmの速度での空走割合は8割です。追突は比較的低速時が多いのですから、オンブレーキが有効です。デノーメンの認識とオンブレーキの実践が追突事故を減らします。5kmの速度では止まるのに通常1.5m要しますが、オンブレーキでは0.9mとなります。60cmの短縮は大きいです。ぎりぎり停止でも事故ではありません。

アメリカのSAEという論文集では、反応時間を0.5秒短縮すれば追突事故の7割方、交差点での出会い頭事故の5割方、正面衝突の3割方は減少することを示しました(右図)。

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7.潜在的なデノーメン

先ほどのデノーメンの話ですが、図Aはデノーメンは無いように見えますが、実際はあるのです。後で時間があったら申し上げます(後述の十勝型事故の項参照)。

図表

図Bはどうでしょうか。デノーメンはありますか。これは住宅地ですね。子供の飛び出しの危険性がありますね。潜在的デノーメンがあります。

図表

人間はミスを犯します。こちらもあるし、相手もあります。防衛運転は自分だけ気をつけていればいいと言うことではありません。もらい事故も防がねばなりません。自転車事故などでは車のほうが強いですから、責任割合は車に大きい。自転車の方が違反していても被害者は自転車になることが結構あります。

昔は事故要因として人、車、環境と言われました。現在では車の性能機能が直接要因となる事故はほとんどありません。環境では道路環境が問題ですが、これもかなり改善されました。事故要因のほとんどは人だと思ってください。

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8.人間特性から見た事故特性

図表

左記は人間の注意特性を表したものですが、注意の量・範囲・持続には制限があります。うるさい部屋の中で聞きたい声だけを聞くことができる選択性もあります。そのかわり単一チャンネルで複数の人に同時に注意を向けることはできません。ケータイにのめりこんでいると単一チャネルだけに気持ちが向くので、前方が見えども見えずです。

人間は危険回避のための装置として、脳内に扁桃核というものを持っています。何かを感じると通常は視覚皮質を経由しますが、差し迫ったときは視床から直接扁桃核に情報が行って命令が下されます。

図表

これは良さと悪さがあります。直接扁桃核に行くと千分の2,3秒で反応します。危険回避が早くできることはいいのですが、かっとなって攻撃的な運転するとか、血圧が高くなって運転する場合もあります。

扁桃核には過去のさまざまな感情、歓喜、痛い、苦しい、恐怖、などが全部入っています。それを瞬間的に出すことになるので、慎重に運転しなくてはならいのに、気持ちが全部そちらにいってしまい危険です。若者が大勢で乗っていて、はしゃがれてカーブを曲がりきれなかったことがよくあります。

人間にはこういう本質があると言うことがあまり知られていません。これを意識的に上手に使うことが必要です。

下左図は加齢と夜間視力を見たものです。加齢によって視力は落ちますがばらつきがあります。目を保護して上手に使うことが必要です。

下右図では年齢別ブレーキを踏むまでの時間ですが、高齢者は長い時間を要しています。0.4秒くらいの差があります。後方からの刺激への反応は1秒の差があります。

図表

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9.追突事故

図表

右図は追突事故の原因を調べたものですが、高齢者運転講習のテキストには「大型トラックの前には入らないように」と言う言葉が出ているだけです。なぜ入ったらいけないのか、どの程度の危険があるのかについては、一言も触れていません。私も読んだつもりでしたが頭には残りませんね。

トラックは乗用車とは違うんです。私も気をつけていますが、同じ60kmでもトラックが止まるまでには10m以上も差が出ます。こういう乗り物が同じ交通環境の中で走っているのです。

トラックの運転手が乗用車の感覚と同じ感覚で運転しているとしたら、大変こわいことです。

またトラックのタイヤは止まりやすいような材質よりも、摩耗しにくい材質の方を優先させています。こういうことを知っている人は少ないでしょうね。

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10.出会い頭事故

事故で追突の次に多いのが出会い頭です。追突事故は総事故数の36%、出会い頭は32%、右左折で16%、正面衝突が3%になっています。

下記の図でA車の運転者は交差点の見通しの悪さに気がついています。潜在的デノーメンを感じているということです。でもそのまま漫然運転で走ってきました。B車はバイクです。ここは危なそうだけどいつも通っているから大丈夫、と走ってきて事故になりました。

図表

このような住宅地で漫然と運転すればその日はいいかもしれませんが、一生のスパンで考えた場合いいんですか、一生をサバイバルしようとすると、単に気をつけますでは困ります。

(優先道路の考え方があるのでないですか、の声)日本は優先道路があるところもありますが、ないところも多いのです。優先道路ですら事故は日常起こっています。自分は優先道路を走っているのだから、相手が止まるはずだ、と思い込んでいませんか。そうすると事故は絶対におきます。相手もいつも通っているからとか、ミラーを見たけど見えなかったからとか、で運転しているかもしれません。

一旦停止をして左右を確認し、近づきつつある車を認識し、接触する前に交差点を渡りきれると思って加速しても、加速時間が思ったよりかかり衝突すると言う場合、カーブミラーに死角がありそこに自転車などが入っていて見えない場合、速度が速くカーブミラーに当初写っていなくても交差点に入ったら車がすぐそこに来ていた場合、なども出会い頭事故を起こします。

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11.右折事故

図表

右折事故について見たのが右図です。教習所では前方車の物陰になっている車に気をつけなさいとは教えていると思いますが、しかし一番多いのは速度判断ミスです。

自車の速度で曲がりきれると思ってしまうということです。その次が物陰発見遅れです。教習所のテキストを見ても速度判断ミスという記述がないんです。

速度判断ミスに関して、右折横断の実験をしたことがあります。実験前に被験者に何秒で横断できると思うかを聞き、実際の横断時間と比べてみました。すると高齢者のグループが思っているより実際の時間の方が1.7秒も多くかかっていることがわかりました。

また、対向車の接近速度と右折横断の判断についても実験しました。すると、対向車の速度が速いほど、また対向車が小さいほど誤判断率が高くなることがわかりました。

特別な出会い頭事故に関連して、十勝型事故というのがあります。北海道の十勝平野はまっ平で見通しがよくて道路も一直線ですが、信号も標識もありません。そういうところで事故が多発しています。なぜでしょうか。(スピードの出しすぎでしょう、ブレーキがおろそかになっている、感覚の麻痺、の声)

下記の図で双方の運転者は前を注視しています。車は交差点までの距離が等しく、また等速で走っているとします。なぜ事故が起こるのか。

図表

免許更新の際のテキストに「中心視、周辺視」と言う言葉が出てくるのを覚えていますか。中心視は焦点を当ててみているところで、文字やものの動きをしっかり捉えていますがせいぜい3度くらいの範囲です。周辺視は視角は60度以上あって、もののおおまかな動きと光の点滅を見ています。

追突事故は多少わき見運転していてもブレーキランプの点滅を周辺視で捉え、オンブレーキを守っていればかなり避けることができます。

ところがこの特性が十勝型のようなところではアダになります。周辺視で相手の車を捉えてはいますが、等速で視角がいつも同じなので、相手の車が走っているように見えないのです。止まっているように見えます。だから気がつきません。こういう人間の特性があるのだ、なんてことは教習所では教えません。

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(質問)

Q  理論や実態データはよくわかりましたが、理論どおりのことを身につけようとすると訓練が必要ではないでしょうか。スポーツ選手と同じようだと思いました。

A  理論やデータを持たないより持った方が事故が減るのではないかと思います。

教習所や警察でくれる教本は初歩的で基礎的なことは書いてあります。私の防衛運転の冊子はそれを幅広く補完しています。出会い頭事故が多発していることは教本でも言ってますが、なぜ多いかまでは書いてません。しかしそうなんだと腑に落ちなければ頭にも残りません。

事故は悲惨でお金もかかりますし、ぶつけられたくもありません。警察庁の教本は加害事故を減らすための基本が書いてありますが、もらい事故の話は一つしかありません。高齢者用の教本で「大型トラックの前には入らない」と言うことだけです。

防衛運転をすれば相手も助けてあげることになります。

Q  割り込まれたりするとカッとなりますが、ならないためにはどうすればよろしいか。

A  運転中に後ろの車の運転者の挙動を時々見ることです。異常接近の車や携帯で長話をしているようだったら先に行かせましょう。

Q  20年前に比べると運転者のマナーはよくなったと思います。女性や高齢者の運転者が増えたせいかもしれません。

しかし高齢になると視力が落ちたり、判断力が衰えたりします。ウインカーを出しているのに直進したりとか、特に夜間にヒヤッとした経験が多いです。

A  夜間運転はなるべく控えた方がいいです。事故が減ってきているのは若者が減ってきているからでしょう。

高齢者になったら夫婦二人で運転してください。助手席に乗っているだけでもいいのです。四つの目で見ることができますから。

pin 「防衛運転」についてさらに詳しくお知りになりたい方は、以下にご連絡下さい。   
めーる

(終わり)

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