掲載日:2014年3月9日
お題2012年の国連が定める国際協同組合年には、「協同組合がよりよい社会を築きます」という統一スローガンのもと、世界中でさまざまな取組みが行なわれました。生活クラブ連合会では、世界の協同組合の実践を学ぶ旅を実施し、今回の寺子屋サロンでは、ヨーロッパの協同組合を訪問する旅に参加した清水泉さん(生活クラブ埼玉理事長)を話し手に、ヨーロッパの協同組合についてのお話と参加者による意見交換を行いました。
イギリスは3人集まれば協同組合ができるということで、ワーカーズと同じですね。パソコンコーナーでは、求人やイベントにアクセスするため無料で使えるパソコンが置かれています。協同組合年ということで作ったポスターには、おっこちている人(男性)を手を差し伸べて持ち上げている女性(make it corporative)が描かれています。この地域は、イスラム系とかソマリアの難民など移民が多く住み犯罪も多いので、女性が収入を生み出すための支援を行っています。
マンチェスターからロッヂデールに行く途中で、古いビルと近代的な新しいビルが混在しているようなまちの中にあるCICという日本の日生協のような連合会組織を訪問しました。そこでは、パソコン講座などの他、英語の訓練、英会話などの職業訓練や求職活動支援、法律相談など、いろんな協同組合が連携してかかわっています。また、ワーカーズがレストランを経営し、ケータリングもやっていて、食事を持ってきていただきました。中身は、ハム、レタス、ジャムのサンドイッチ。全部いっしょに食べるのか?と思う組み合わせでしたが、ここで会議をするときなど、それをランチとして使っているということでした。
イギリスでは、協同組合による学校はロンドンから始まり、今では320もの公立学校を協同組合が運営しているそうです。親と子ども一人ひとりを組合員としてカウントし、小学校に入学した時に出資する。中学校に入学するときは、それまでためていた出資金を次に入学するところに持っていく。イギリスでは、税金だけでは学校はやっていけないので、協同組合に学校の運営をお願いしているということです。ペアレントコーポラティブは、もともとスウェーデンから始まったものですが、イギリスでは320校もの協同組合による学校があり、授業の中に協同組合という科目があって、自分たちで出資して自分たちで運営することを子どもたちに教えているそうです。移民国なので、いろんな人たちがいて、すべての人が平等であると何度もおっしゃっていたのが印象的でした。歴史的背景があるのかなと感じました。
世界の協同組合の始まりと言われているロッヂデールはロンドンから車で約1時間、途中の高速道路からは、レンガづくりの家がポツンポツンと見えました。
ロッヂデールで最初に協同組合として作られたお店が、今は協同組合博物館として残されています。
当初発起人28人が、生活の安定や働く場所をつくるために協同組合を作りました。1844年、19世紀のことです。博物館の中には、正しく量目を量るための正しい商売の象徴としての秤が置かれています。
当時は、品物の悪いものを売っていた時期で、秤は、私たちはきちんと量って売っていこうということの象徴です。ほんとうに古い建物で、中に、たしかバターとろうそくだったかな?置いてありました。その頃バターは混ぜ物をして売られていたのが一般的だったので、自分たちは混ぜ物のないバター、ちゃんとしたものを売ろうとして始めた店でした。小麦も違う粉を入れて健康障害が起きていたので、自分たちは、まがい物ではない小麦を売るということをしていたそうです。
博物館では、絵はがきなどが売られていて、若い女性の方がロッヂデールの歴史などを話してくださいます。小麦について、1つだと大した力はないけど、みんなで集まることによって大きな力になる、それを象徴する絵がありました。協同組合の理念など協同組合の基本が最初に定められたということも書かれています。その当時お店に売っていたのはベーカリーでパンとか、ピュアバター、タバコ、いちじくなど、どれだけその当時はまがい物が多かったのかと思いましたが、ちゃんとしたものを売りたいということで、どういうものを扱っていたかというチラシのコピーがありました。最初のお店のオ―プニングのポスターには、いろんな物を自分たちで刈りとって生産するっていうことと、みんなと一緒にやったっていうことが書かれています。他に手がけた製品は、紅茶、自転車、棚、ラジオなど。さまざまな展示が博物館の中にあって歴史を見ることができます。
博物館の他、新しく建てられたスーパー「エクスチェンジ」があり、コープティーと書いてあるんですが、カフェとして始まりました。スーパーでは、果物などパッケージされたものより、むき出しの物が多いです。あとトレーサビリティー、健康に配慮されたものとしてカエルマーク。このマークが付いた製品を買うと環境保護にお金が行くという仕組みになっています。
協同組合銀行の貸付は、組合員の投票によって、どこを融資先とするかを決める仕組みになっています。店舗数は南と北では、南のほうが少ない。でも、融資金額は南のほうが高いんです。北は出資する人が多く、お金は北から集まり、南に融資をすることによって、南の企業とか労働者とかが潤うようにやっているということです。
投票によってお金を出すところを決めるので、預金する人にも銀行の信頼度が高く、預金が増えているそうです。イタリアの方たちも考えてそこに預金をするようになったと聞いています。仕組みはエリアごとにわかれていて、候補を上げて、選定する。いくつか上がったところに市民が投票する。エントリーしたからといって融資が決まるわけではなく、審査があります。隣の古いビルは解体中で、そこも起業する人たちに貸し出すブランチだということでした。説明してくれた2人の人たちは、説明の合間にもミーティングをするということで、議論して決めていくところは協同組合なんだと感じたできごとでした。
入り口に「近づいて見ると普通の人は誰もいない」と書いてあります。ここには以前精神病院があり、そこの精神科医が精神病患者は隔離しては治らない、世の中に出さなくてはいけないと言い始めた。それで、開放しよう、それが地域社会を作ることだということで、精神病院をやめてオープンにした。精神病疾患の患者が出てきたら困ると思うのが普通で、それをまちの人にわかってもらうまでに20年かかったということでした。
協同組合を作り、精神病院の跡地に簡易レストラン、ケータリング、簡易宿泊所を作った。レストランは、週末とかは1日50人から60人やってくるということです。入口を入ってすぐのところにカフェ(バリスタ)があって、コーヒーを入れる人が泡立つ入れ方とかを訓練しています。バリスタとキッチンのコーナーとフロアーのコーナーの3つがあって、健常者と訓練を受けた精神障害の方が一緒にやっている。精神障害の方は薬を飲んでいるため、長時間の仕事ができない。健常者3人+障害者1人というカタチでやっている。B型社会協同組合は、障害者など社会的に不利な立場の人々が3分の1以上いることで認められています。
木工細工もやっている。木工製品はそんなには売れなくて、なかなか難しい。バリスタ訓練を受けて就職できるようにしている。もう1つ別棟で、簡易ホテルもやっていて、宿泊研修施設という感じで、長期で泊まっている方たちもいる。全部で1,000坪くらいある敷地で、ステージや客席を作り、自分たちで劇団を作りたいという人たちを集めて、ここで演劇を勉強したり、練習、発表もできる形にしている。指導するスタッフの方たちもいる。中では普通に犬がうろついていて、作業所の中にも平気で入ってきて癒やしになっている。他にも、木の上に家を作ったりして、自分たちのやりたいことをやっている。
ウルボロは蛇の意味。蛇がグルっと回った形、輪廻のようにグルって回って終わらないというデザインをしていた。彫金って細かい仕事で、お店の奥に工房があって作業するんですが、ここでは健常者の方も協同組合ということで一緒に働いている。午後だったので、障害者の方は短い時間で帰ってしまうので、会うことはできなかった。彫金は細かい仕事なので、いきなりここで働くわけではなく、彫金コースでお金を払って作るコースをやった上で、初めてその人が彫金に向いているかどうかを見極めてから、ここで訓練をしてみない?ということでお誘いをすることになっている。
ここはA型社会協同組合で、福祉分野で多く生まれています。支え合いやたすけあいの理念に基づいて運営されていて、そうじなど高齢者に頼むこともあり、自分でできることはやっているということでした。1階が重度の障害の方で、2階からは高齢者介護付き住宅になっています。吹き抜けになっていて、スタッフは行き来しますが、1階は重度の障害者の方たちもいて、デイサービスもあります。自分たちで調理ができるキッチンもありました。
入所者の方たちは気さくで元気が良くて、写真を撮ってもいいよいいよっていう陽気な方でした。この中の施設に住まわれていて、2人で一部屋、祈り用の部屋もあり、介護用のお風呂、介助用の機械もありました。食堂は明るい雰囲気でした。なんか、明るかったです。理髪店もある。壁の写真は、顔ではなく手の写真でした。軽度の方のところを見学しましたが、重度の認知症の方のところは、帰りたい人がいたりして鍵が必要だそうです。
認知症の人は庭には出られるようになっている。お花も咲いていて、バーベキューをやったり、日光浴や外の空気は体験できる。右手にあったのは、畑、花壇。花を植えたり野菜を植えたりすることを入所されている方も担っていて、高くなっているので車椅子にのっていても作業ができるようになっています。
ロンドンに戻り、協同組合の設立支援を行っている協同組合を訪問しました。3人でやったら何ができるか、市場はマーケティングとして何が必要か、こういうものだったらできるんじゃないかとか、お金を集めることなど、4日間無料で支援が受けられます。日本でいうとワーカーズ連合会のような。ここは、教会などの寄付を得て、補助金はあてにしない、自分たちでやっていくというやり方で女性の起業を支援しています。移民やDVの方たちの相談にのったり、いろんな所に出かけて行き4日間の無料支援を行っている。
地域通貨でお金を回すことにも取り組んでいる。イギリスでは生野菜が少なくて、きのことチーズとハムというような食事ばかりだったが、生野菜を届けるための野菜のボックス、フルーツ&ベジタブルボックスというのを協同組合で作ったりしている。それを地域通貨で回る仕組みを考えているということでした。
うしろにある駐輪場の屋根は市の補助を受けて作った。コンポストで野菜を作り、トマトが植わっていた。自立支援のために、ここで野菜を作って売るということも考えてやっている。
場所はスペインとフランスの境界にあるバスク地方モンドラゴンで、地域の人々の仕事を作るために、1956年協同組合を作った。さまざまな分野で120もの協同組合があり、山の上に本部がある。モンドラゴンは工業の協同組合が多く、従業員は近くのアパートに住んでいる。本部は大理石の階段で、建物自体はすごい。シアターもあり、今のCOの方から総括的な説明を受けた。モンドラゴンの労働者協同組合は、教育、健康、金融、工業の4つの柱から成り立っていて、大学もある。工業が一番大きくて、18の部門をもっている。5年かけて従業員はお金をためて、それを持って違う部門に行くことができる。会社が潰れても、退職金は自ら貯めて確保できている。前のCOの方にも話を聞いた。情熱的な方です。協同組合として生きていくということで、世界にはばたくモンドラゴンを作ったというお話。
モンドラゴンで作っている自転車は有名。スーパーマーケットも協同組合。買い物するには組合員にならなくてはいけないが、労働者の協同組合と違って、消費者としては、1.5ユーロ出資すれば利用でき、出資はちょっとしかなくて利用しているだけという感じ。古い農家(100年ぐらいたっている)を買い取って作ったレストランもあった。
自分たちで出資をして退職金を貯めるという働き方の労働者協同組合は、世界的に不安定になっている時も一番影響を受けなかったと言われている。協同組合という資本のあり方が、これからの世界を支えるんじゃないかということで、国際協同組合年が受け入れられた。みんなで出資している出資金があるので、不況にも負けなかった。
寺子屋サロン参加者との交流から世界には、さまざまな協同組合があることがわかり、協同組合としての可能性、地域で市民事業を広げる可能性や協同組合としての役割などについて考える機会となった。日本でも福祉の分野で、もっと協同組合が関われるのではないか、その可能性を感じることができた。
(終わり)
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