トップロゴ  トップ > さいたま寺子屋サロンの記録 > 記録


掲載日:2014年11月2日

お題

「自宅をシェア住宅にしてみる」
〜実家の空き家をシェアハウスにした話です〜

開催日 : 2013年9月21日
会 場 : 生活クラブ本部談話室
話し手 :大津 美樹子 さん
(建築士、シェアハウス経営者)
寺子屋の一コマ
参加者が多く、シェアハウスに対する関心の高さがうかがえました。

目次

1.一軒家が空き家になる

川口市に10年ほどひとり暮らしをしていた父親をわたしの住まいの近所に居を移したため、一軒家が空き家になりました。今から20年ほど前に建て替えた木造2階建の一軒家です。この時は、一軒家をどうしようか、ということはまったく考える余裕もなく、荷物の片付けが、当面の課題でした。

- 目次へ戻る -

2.荷物の整理

2008年12月の引っ越し後、片付けしなければと思いつつ、あっという間に次の夏になり、庭の雑草が伸び放題になりました。週末にでかけては、荷物をすこしずつ整理してみるのですが、どこから手をつけていいやら、いっこうに作業が進みません。

2003年に、栃木の夫の実家も空き家になり、その時は何度も通えないので、あらかた、業者に頼んで処分し、使えそうなものだけ少しずつ帰省した時に運び、フリーマーケットで5〜6回くらいで売りました。結構それが、楽しかったことを思い出し、気が進まない片付け作業に少しでも楽しみを見いだせば、そこから突破口になるかと、思い立ちました。

川口市の実家が、空き家になってから、2年近くが経っていました。

- 目次へ戻る -

3. Yahoo・オークション

そこで、アナログ人間、一念発起で、Yahoo・オークションに登録し、屋根裏の納戸の古道具の写真をとっては、オークションにかけてみました。

こんなもの買う人がいるのかという古道具も、たった一人でも買いたい人があれば、上出来、値段は、二の次、そんな売り方で少しずつ、荷物が片付いていきました。全国津々浦々から連絡があり、今さらながら気がつくのも恥ずかしい話ですが、インターネット世界の広さを実感します。

1年ほど、オークション出品を続けていき、荷物も粗方、整理ができてきました。すると、家の輪郭が不思議と見えてきます。ここで、はじめて、この家をどうしようという思いが、でてきました。近所の不動産屋にだしてみようかとも思ったのですが、以前、新聞でみた記事に「シェアハウス」というのがあったなあと、スクラップした記事をあらためて読み直してみました。こういう賃貸の形式もできたら、おもしろいかもと思い、そこで、解らないときのネット検索!!「 シェアハウス 」がいくつかでてきました。

そのひとつのサイトの代表者が、偶然にも、スクラップしていた新聞の記事でシェアハウスの紹介をしていた方でした。そして、そのサイトでシェアハウスの管理するための講座が来月あるという案内を発見しました。シェアハウスが現実にできるかどうかは、わかりませんが、まず、どんなものなのか、参加してみることにしました。2011年の12月の3日間、たっぷりシェアハウスについて授業を受けました。

- 目次へ戻る -

4.シェアハウスとは

最近、TVドラマで、仲のよい友達同志が一軒家を借りるという設定でシェアハウスがでてきます。実際、ここ数年で、その数が増えているようです。講座では、一般のアパートに人が入らなくなり、シェアハウスに変えて、事業展開を考えているという不動産関係の方、私のように、空き家になった自宅をシェアハウスにしたいという方、個人で賃貸した家をシェアハウスにして運営したい方などが参加していました。

最近は、シェアハウスという形態に住みたいという人が増えているため、古い家を改築してシェアハウスにするだけでなく、シェアハウスの新築物件を建て、管理する業者もでてきているようです。過去にさかのぼりますと、60年代、東京オリンピックの頃、外国人向けの住まいがほとんどなかったため、一軒家を外国人向けのシェアハウスとして提供するというのが、始まりだったようです。

シェアハウスの管理形態としては、住人同志で一軒家を借りる(DIY型)、外国人向けのように、管理、募集を事業者がおこなう(事業体介在型)にわかれます。

DIY型は、3人4人集まって家賃を折半し、自分達で自由に生活できる気ままさが、ありますが、途中で住人が抜けていくことがあり、そうすると家賃の負担が増え、続かないことがあります。かたや、事業体介在型は、管理者が募集、面接、決定するので、住人同志は知り合いでないということです。管理業者が契約時に約款などで、決まり事を決め管理するので、DIY型よりは、自由度は薄れますが、住人の調整は、常に管理業者がおこなうので、家賃の変動はありません。家賃設定の目安は、シェアハウス周辺のワンルームの家賃を参考にするのがいいようです。

具体的なシェアハウスの管理は、募集、面接、決定の他は、主に清掃です。台所・居間・水回り・トイレ・パブリックスペースは、管理者が整理、整頓します。個々の部屋はそれぞれの住人が清掃します。

さて、募集をかけて、どういう方が集まるのでしょうか?

シェアハウス講座では、30代の女性が主で、学生はターゲットにしていないということです。学生は時間に不規則、どちらかというと、規則的なことにはルーズな傾向が強く、問題が多くなるようです。シェアハウスに住む方は、生活費を自分で稼ぎ、社会的な規律をもっている人達、20代半ばくらいから40代くらいの間をターゲットにしています。

60〜70%くらいは女性だという事でした。外国人もいらっしゃいます。多い人数のところは男女いっしょ、混合タイプのシェアハウスもあるようですが、管理しやすいのは、女性専用のようです。また、シェアハウスの住人になろうという人達の中には、学生時代に海外留学の際、シェアハウスで生活した経験をもった人達がいます。

授業を受けてみると、なんとなくですが、シェアハウスの管理の主は、清掃だし、私でもできるかもしれないと思えてきます。しかし、どんなシェアハウスにすればいいのか?それが、解りません。講座一日終了後、帰宅途中、いろいろ考えました。

荒川の土手沿いで、駅から歩いて15分、けっこう不便な所です。貸す部屋も4室というもので、こんな家が、シェアハウスになるのだろか?と・・・・。土手沿いなので、マラソンする人や自転車で走る人も多い、そういう人をターゲットにしてはどうか、などと自分なりに考えてみました。なんとか、講座中に考えをまとめたいので、2日目の授業の合間の休憩時間に、そのあたりのことを講師の方に質問してみました。

「駅から遠く、土手沿いなので、マラソンする人や自転車乗りをターゲットに考えているのですが、どうでしょうか?」

すると、「実際、自転車やバイク好き向けシェアハウスはありますが、おすすめできません」ときっぱり。「ニッチなニーズをターゲットにしても、そうとうな専門知識があればいいのですが、中途半端になりがちで、うまくいかないことが多い。4室でも十分対応可能、ぜったい、女性専用がおすすめです」。

ターゲットは、はずれましたが、4室でもだいじょうぶと言われ、シェアハウスが現実味を帯びてきました。シェアハウスを利用するのは、30代前後の女性 が60〜70%という数字を信じて『30歳前後の女性向けのシェアハウス』にすると、講座修了の頃には、すっかり、気持ちをかためることができました。

- 目次へ戻る -

5.家の改築

 

シェアハウスに決めたとはいえ募集して、はたして人が集まるのか?と不安な気持ちはありましたが、なんとか形にしてしまえば、腹もくくれるだろうと、年が変わった2012年1月、改築作業に、取り掛かりました。自分の仕事が建築設計なので、見積もりは、すぐにでます。できるだけ最小限の予算で最大限の効果を狙います。

まずは、汚れの目立つ部分をきれいにすることからです。

1階のリビング、個室部屋のじゅうたん貼りの床をフローリングに替えます。これで、古い内装も清潔感がでてきます。

壁の改装は、パブリックスペースの塗装壁の汚れた部分は、自分で補修してすませます。 個室部屋は、4室全部とはいかないので、汚れの目立つ2部屋の個室の壁クロスを張り替えます。1階のトイレの便器は、汚れが目立つのでシャワートイレに替えます。

また、2階に浴室があるため、1階の個室の住人の不便さが少しでも解消できるかもと思い、少し大きめだった1階のトイレの一部にシャワーユニットを入れます。

夏の庭の草むしりの苦労を思いだし、草むしりをしないですむように、リビング、ダイニング、1階の個室部屋に面したテラスデッキを新しく作ります。そうすると、窓から、庭をみたときの景色も、部屋とのつながりを感じるようになります。

2階の浴室の脱衣室のドアをつけ、個室部屋の和室のふすま戸をドアに作りなおし、個室のドアそれぞれに鍵を付けます。

設備では、エアコンのない個室に新しくエアコンを取り付け、ガス給湯器が故障のため、これも新しい機器に替えます。

あとは、細かい棚などは、DIYですませ予算の節約につとめました。

ダイニングとキッチン ダイニングとキッチン
ダイニングとキッチン
リビング リビング
リビング
※写真をクリックすると写真を拡大してみることができます

- 目次へ戻る -

6.法的な話

シェアハウスを運営するにあたり、役所への手続きも必要です。

建築基準法に関わることですが、今回、一般住宅から寄宿舎扱いの用途変更にあたります。川口市の建築審査課では、個室の総面積が、100u以下なので、用途変更の手続きは、免除となりましたが、消防検査は、必要と言われました。

このあたりの役所手続きは、場所によって見解がいろいろなので、注意が必要です。消防検査は、いくつかの書類提出と、現場検査があり、住宅用の火災報知器の設置のチェックがありました。消火器の設置の指導があり、その他は、問題なしということで、消防検査が、終りました。

- 目次へ戻る -

7.サイト広告を出す〜家賃の設定

これで、建物の方は、だいたい、形になりました。改築工事は、2月から3月のはじめに済ませ、あとはシェアハウスの備品の購入です。皆で使うために、家電製品(TV、洗濯機、冷蔵庫)、食器、調理道具、洗濯物干しを揃えます。

それぞれの個室には、ベッド、パイプハンガー、カーテン、ブラインド、扇風機を揃えます。ウォークインクローゼット内には、それぞれ専用たんす(4台)を揃えます。また、インターネットの接続準備もあります。固定電話は、携帯電話をそれぞれ持っていることから、「なし」とします。部屋の鍵、玄関の鍵も4個ずつ揃えます。

結局、大工工事に300万円、備品関係で100万円ほどの出費でした。

3月中に広告を出したいと思い、急ピッチで準備を進めました。

広告は、さきほど話にでました、シェアハウス講座を受けたサイトにお願い致しました。担当の方が写真を撮り、広告文もこちらの話をまとめて書いてくれます。だいたい、このシェアハウスは、駅から遠く、立地条件もいいとは言えないので、そこを逆手にとるしかないと思い、「ゆったりとした生活を」という文句で、広告を出してもらいました。

家賃は、埼玉県内のシェアハウスを参考にし、5万円前後に設定しました。家賃の他に共益費も設定しなければいけません。共益費の内訳は、ガス、水道、電気、ネット回線料金、NHK受信料などの光熱費、その他トイレットペーパーや食器洗剤などの雑費です。これは、1万円/月 に設定しました。

契約の方法は、シェアハウス講座でしっかり授業を受けたとおり、定期借家契約を採用し、定期期間を1年未満としました。敷金は、1万5千円、礼金なしです。それでなんとか、引っ越し時期である3月中に広告が出せました。広告を出してから2週間目ぐらいから、ぽつぽつと問い合わせが来まして、4月中には、4人の方が、決まりました。たった4部屋のシェアハウスでしたが、部屋が埋まったときは、本当にほっとしました。やはり、4人すべての方が30代前後の方でした。

- 目次へ戻る -

8.トラブル対応

シェアハウスの住人が決まり、一仕事終わった気持ちでしたが、これから、シェアハウスを運営しなければなりません。まずは、ウェルカムパーティーを開き、住人同志のコミュニケーションュをはかります。それでも、時間がたつと、いろいろ細かい問題がでてきます。食器や鍋などの片付けの仕方が悪い、夜遅くまで友人が帰らない、深夜のドライヤーの音がうるさい、鍵の閉め忘れで出かけてしまう、などがあります。

戸締り、キッチンの片付け、ごみ出し、騒音、4大トラブルです。

どうやって解決するか?このあたり、シェアハウス講座をうけたときに一番、気をつけて聞いていたところでしたが、なかなか現実に起こってくると、難しいものです。メールのやりとり、ときには、直接電話をして、とりあえず、話を聞くということを心がけています。問題があるときは貼り紙をします。その他にノートをつくって『猫の手通信』とし、問題があったらそこに書いて、ダイニングテーブルの上に置いておきます。1年で1冊が終わりました。

- 目次へ戻る -

9.シェアハウスいろいろ

夏のゴーヤ
夏のゴーヤ

最近、都心でも、空き家が増え、全国的にいわゆる空き家問題が深刻化しています。 そのひとつの解決方法として、シェアハウスという活用方法があげられますが、その反面、違法なシェアハウス問題も出てきています。

6畳ぐらいの部屋に2段ベッドを何台も持ち込んで板一枚で仕切り、何人もの人に賃貸し、ふすま1枚で仕切られたような和室を個室としたりなどのシェアハウスは、避難経路の確保が不十分であり、耐震、防火にも問題があります。そのため、国土交通省がシェアハウスに規制をかける動きもでています。ただ、一律に取り締まるだけでは、空き家のうまい活用方法として広く利用されているシェアハウスのほとんどが、違反建築となってしまいかねず、行政機関もどこまで取り締まるか、具体的な指導は、これからのようです。

今の若い世代は、リノベーション世代と呼ばれています。

新しいデザインではなく、古い建物を手作り感覚の内装で改築するのを好む傾向があります。そういうデザインのカフェや雑貨店などが町に多く見受けられます。そういう感覚をもった人たちにシェアハウスが支持されているのかもしれません。最先端の情報機器を片手に持ちながらも、どこか、温かみのある空間で、最低限のプライベート空間と、人とのつながりのある空間を両方かねそなえるシェアハウスに住む若い人達、あまり気負うことなく自分の生活を楽しむスタイルを確立しています。

冬の暖炉会 庭の梅酒
冬の暖炉会庭の梅の実で梅酒づくり
※写真をクリックすると写真を拡大してみることができます

- 目次へ戻る -

最後に

最後にこれからどんなシェアハウスが可能なのでしょうか?

この間、新聞の記事に、フランスの独居老人の住む家のひと部屋を若い人に提供する代わりに、週何回か一緒にご飯を食べる、そういうシステムがあるとありました。これなど、空き家問題と高齢者問題の解決方法のひとつと、いえるかもしれません。

家を建てるだけで終わりでなく、家を通して、人との新しいつながりができるシステムを考えることの方が、ますます重要な時代になってきているのかもしれません。

(終わり)

- 目次へ戻る -


<スタッフ>
テープおこし/文責/ HTML制作:山野井美代
お問い合わせ:  NPO「大人の学校」
住 所:  さいたま市南区別所5-1-11
TEL/FAX:  048-866-9466
Eメール:  otonano-gakkou@cure.ocn.ne.jp

[制作] NPO(特定非営利活動法人) 大人の学校