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掲載日:2023年6月4日

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講座の記録

講座名:食と環境カレッジ2023 【全5回】
ハイブリット講演会(オンライン & 会場)

第1回 あなたの食べ方が地球を変える ~フードマイレージ 日本の現状と解決策は?~
講師:中田 哲也 さん(「フード・マイレージ資料室」主宰)
開催日:2023年5月23日 (火)
講座の一コマ
中田 哲也 さん
講座の一コマ

フードマイレージは、食料の輸送量×輸送距離(トン・キロメートル)で示される指標で、食料の供給構造を数字に表したものだ。食と農の距離感の把握や、食料の安定供給の確保のため、また、食料の輸送に伴い排出されるCO2が地球環境に与える負荷の把握にも使われる指標である。

世界的にみて日本は突出してその数字が大きく、世界1位となっている(韓国やアメリカの3倍。中国を除く)。食料自給率が低い島国の日本は、アメリカやブラジル、カナダなど輸送距離が長い国々から、食料を大量に船で運んでこなくてはならないからだ。また、計算により、食料の輸送によって年間で1世帯当たり380kgのCO2を輩出していることが分かる。

深谷産のねぎと中国産のねぎを川口に輸送した場合、中国産のフードマイレージは深谷産の35倍、二酸化炭素排出量は12.3倍となる。エアコンやテレビの使用を減らさなくても、国産の野菜を買うことでCO2の排出を大幅に減らすことができるのだ。またカロリーベース自給率の推移から、日本人がパンや肉、油を多く摂るようになり、米を食べなくなったことが、自給率の低下につながっていることが分かっている。中田さんは、自給率を向上させ、フードマイレージを少なくし、二酸化炭素の排出量を減らし、健康増進にもつながる「日本型食生活」を勧める。地産地消、旬産旬消の「日本型食生活」は、脂質を減らし、国産の米と地元で採れる旬の野菜をバランスよく食べられる。

後半ではパンデミック、ウクライナ侵攻、気候危機など世界的な危機と日本の食との関連が取り上げられた。中田さんは、世界的な危機よりも、国内の食料供給基盤の脆弱化が最大のリスクではないかと言う。国内の農産物の価格が低迷し、離農する農家が増える中、生産者の高齢化、後継者不足、廃農地の増加などで中山間地の過疎化がさらにすすむことで、国内で食料を安定して供給する基盤が崩れ、国土の強靭性も失われていくのではないかと危惧する。

そこで一番大切なのは一人一人の個人の気づきと主体的な選択だという。価格の低迷で農業を継続できない農業生産者を「買い支える」ことができるのは、消費者しかいないという。イギリスでは、人権や環境に配慮した消費行動を「エシカル消費」といっているが、イギリス人の60~75%は、それほど積極的にエシカルな消費行動をとってはおらず、「ときどきエシカル」な層と呼ばれている。この層が、常に積極的にエシカルな消費行動をとるよう変化することが期待され、その変化によって大きなインパクトが起きるのではと注目されている。

日本でも、スマホ代を少し減らし、多少高価でも安全な食品をより積極的に選んで買うようになれば、日本の社会や農業に大きな変化が生まれるのではないだろうか。フードマイレージを意識し、消費者と生産者や生産地との距離を縮め、両者の顔が見える関係性を再構築こするとで、食べ物を大切にし、生産者を敬い、自然や環境を畏敬する気持ちを取り戻すことができると考える。生産の現場を訪ねたり、生産者と交流したり、自分で野菜を育ててみるなどする中で、意識が変わり、行動も変わってくるという中田さんのお話に、深く共感した。

報告 :あかばね
本講座チラシ